TS-850Sの修理その2


  ある日突然、送信がまったく駄目になってしまいました。
  受信はOKだったので、なにか設定が違っているかな?、勘違いだろうと色々調べましたが、やはり駄目。
  まさかTS-950のように、ファイナル周辺が全滅なんてことでは・・・
  しかたなくラックより降ろし調査することにしました。(つい最近、AFの電解コンを交換したばかりなのに・・とほほ)
  
   


 
・ 現状確認
  とにかく送信パワーがオールモードでまったく出ません。
  送信時の消費電流を見ると、送信部のバイアス程度分、ほんの少し増えるだけです。
  とりあえず中を開け、ファイナル中心に調査を開始しました。
  TS-950の時とは異なり、特に焼けた抵抗などもなく、目視では異常ありません。
  またアナログテスターによるチェックでも、ファイナルをはじめとするTR類は大丈夫なようです。
  

  ファイナルに信号がきているかチェックしてみたところ、きていません。送信IF部を調査することに・・・
  送信用1stMIXは、CARユニットからの455kHzと8.375MHzを混合し、8.83MHzの送信IF信号を作り出しています。  
  

  しかし、この1stMIXの出力が送信時にありません。これではパワーなど出るわけありませんよねえ。
  写真の一番下の同軸が送信IFなんですが、この信号が送信時に出てきません。
  さらに調べると、真ん中の同軸のローカル信号(LO3)が、送信時に消えてしまうことがわかりました。
  (受信時は出ているので、受信はOKなんですよね)
  


・ 原因・対処
  ローカル信号を生成しているは、CARユニットに実装されたDDS ICです。
  このDDS ICは内部レジスタが2個あり、1個が受信用でもう1個が送信用です。
  このレジスタにCPUが適時データを書込み、モードや送受信でローカル発振周波数を切り替えているようです。
  問題のローカル信号(LO3)は、IC2で生成されるのですが、受信から送信に切り換えると信号が生成されなくなります。
  これはもう、このICが壊れたとしか考えられないですね。
  

  このDDS ICはYM6631というKENWOODがヤマハに作らせたオリジナルICのようです。
  ネットでいろいろ調べたところ、YM6631には信頼性の問題があり、途中から改良版のYM66312に変わっているようです。
  ですから同じTS-850でも、初期版のDDS ICと改良型のICが実装された2種があることになりますね。
  私のは勿論、初期版のYM6631が実装されてました。(850が発売になって2年程度して買ったのですがね〜なぜ?)
  まあ考えようによっては、15年以上動いていたわけですから、あまり文句は言えないかもしれません。
  早々にケンウッドのサービスに電話で問い合わせたところ、”もうこのICは入手不可部品です”とのこと。
  ”発売から17年たってますからねえ〜”と・・が〜ん!
  諦めきれずネットで探していたところ、”USAのあるHAMショップで売っているよ”との情報をいただき、そこから個人輸入することに・・・
  購入したのが写真のものです。(予備を含め2個購入。結構なお値段でした)
  ものはなんとKENWOODの正規保守部品でして、それも改良版のYM66312でした。
  日本にはもう無いのに、なぜUSAのHAMショップにあるのでしょうか?ケンウッドさんなぜ?
  

  不良DDS ICを取り払い、アルコールで洗浄。
  

  DDS ICの位置合わせを慎重に行い、2〜3箇所仮ハンダ付け。
  取付位置に問題がない事を再確認し、その後はちまちまとハンダ付け。
  ルーペでハンダ箇所を最終確認して、作業完了。
  なんとか上手く交換できました。(^_^)/ 二度とやりたくない作業ですねえ。
  (本当は全て改良版のYM66312に交換した方が良いらしいです)
  

  その結果、見事ローカル信号(LO3)が送信時に出るようになり、送信出力が復活しました。
  ついでに、20MHzの基準発信器を校正して完了。 ああ疲れた・・